小学校、中学校の留年制度「原級留置」

不登校について知ろう

「原級留置」という制度をご存じでしょうか?

「留年」という言葉を耳にされたことがあるかと思いますが、これの正式名称が原級留置になります。
今回は、この原級留置という制度について詳しく解説していきます。

原級留置とは

原級留置とは、各学年において課せられた各教科の学習効果が進級させるために十分ではないと校長が判断した場合、原学年に留め置くという措置のことです。

この原級留置の認定について、公立小中学校管理規則では以下のように記されています。

校長は、児童生徒の平素の成績を評価した結果、各学年の課程の修了又は卒業を認めることができないと判定したときは、当該児童生徒を原学年に留め置くことができる。

公立小中学校管理規則第7条

原級留置の適用について

原級留置の判断基準は、通常「成績」や「出席日数」が考慮の対象となります。

特に年間30日以上欠席した生徒を対象としている場合が多く、学年末に教職員全体で「進級判定会議」「卒業判定会議」を行い、児童・生徒本人と保護者の進級の意思確認が行われます。

本サイト「子どもいばしょナビ」を運営する「安城のフリースクールきのこ」でも先日、通われる子どもの学校から「30日以上休んでいる子に『次の学年に進むかどうか』を確認しているが、どうしますか?」と電話がありました。

原級留置の実情

日本では、学習者の年齢と学級をそろえようという考え方(年齢主義)があるため、基本的に公立の小中学校では留年がないといわれています。

年齢主義とは、学習者の年齢と学級をそろえようという考え方で、同じ学年に同じ年齢(生年月日に1年以上の差がない)の生徒が集まることになります。

ですので、学力や出席日数に大きな差があったとしても、基本的に留年がない仕組みになっています。

また、2005年1月に開かれた中央教育審議会初等中等教育分科会でも、原級留置について以下のようにまとめられています。

初等教育
通常、毎年1学年ずつ自動的に進級することを基本とする。原級留置が行われることはまれである。

中等教育
義務教育段階の前期中等教育については,通常,毎年1学年ずつ自動的に進級することを基本とする。原級留置が行われることはまれである。

文部科学省「各国の義務教育制度の概要」

原級留置希望が認められずに裁判に発展したケースも

過去には原級留置希望が認められず、裁判にまで発展したケースがあります。

兵庫県神戸市立菅の台小学校に在籍していた当時5年生の女子児童が、いじめなどの理由により長期欠席となりました。
登校したのは71日で、うち37日が会議室での自習であり、教室に出席したのは34日だけ。
出席日数の不足を理由に、児童と父親は「留年にしてほしい」と学校へ希望しましたが、校長は成績を考慮して希望を拒否し、強制的に6年に進級させました。
この進級に対し、児童や父親はそれを不満とし、1993年5月に神戸地方裁判所に訴え出たというものです。

1993年8月30日に神戸地方裁判所で、以下の要旨に基づき、学校側が進級を決定したことを正当化し、原告側の敗訴とする判決を下しました。

  • 仮に、学業成績や出席日数のみに基づき、進級をさせないとした場合、小学校の段階では年齢により、体格・精神年齢・運動能力に顕著な差があり、一学年遅れると次学年の児童の間に溶け込むのに大変な努力が必要となるし、社会的な違和感に耐える必要があるという著しい不利益を被ることを考慮すべきである。

  • 一般的に義務教育では年齢主義的な学年制の運用がされているが、殊に、初等普通教育においては「心身の発達に応じて」教育を施すことを目的としており(学校教育法一七条)、小学校の段階では年齢により、精神年齢・運動能力・体格等心身の発達に顕著な開きがあることから、年齢別の教育が最も適するといえる。

  • 小学校の教育の目標は社会生活・日常生活における経験に基づいて必要な能力を養うことに主眼が置かれている(同法一八条)が、この目標達成のためには、同じ社会生活・日常生活上の経験を有する同年齢の児童ごとに教育することが最も適していると解せられる。
神戸地方裁判所 平成5年(行ウ)9号

まとめ

原級留置という制度自体はあるものの、日本の教育では年齢主義が根強く、公立の小中学校では留年を強制する仕組みは事実上ないといえます。ですので、ひきこもりや不登校で欠席日数が多い場合でも、留年を強制されることはありません。たとえ出席日数が足りなかったとしても、進級は年齢に合わせて行われます。

ただし、年齢主義はあくまでも考え方であり、法的に決まっているものではありません。先述の「中央教育審議会初等中等教育分科会」のところでも「まれである」とされています。特に、私立中学校の場合はその「例外」の範囲が公立よりも広い傾向にあり、留年の事例もあるとされています。

ですが、成績不良や不登校であっても、私立の場合は転校すなどして、進級や卒業をすることもできます。

ですので、義務教育のあいだは「留年するかもしれない」という不安を持たなくても大丈夫と言えます。

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